五十嵐大介『はなしっぱなし 上』(河出書房新社)

 ふわー、なんだか不思議なマンガでした。なんと言えばいいんだろう。腹を抱えて面白いって訳でもないし、涙が出るほど感動するって訳でもないのに、妙に心に引っかかるのです。腰巻に書かれている「奇想のカオス」というのは、意味が解らないながらも、確かにこのマンガを言い表しているなぁと、同じ帯に「幻想」という言葉も書かれているのだけれども、それよりもこの「奇想」というのが合う作品群でした。
 奥付などから推測するに、これは連載されていた作品なのであろうけども、そこには一貫したストーリーや登場人物などは無くって、短編集のような趣もある*1。共通して言えるのは、夢で見るようなお話だということと、そして登場人物たちはその世界を、夢で見るような、日常世界のようでいてそれでもどこか歪んでいる世界を受け入れていて、不思議だと思っていないことなのかな*2
 んー、書けば書くほど言葉が足りないような、また言葉にすればするほどこの魅力はどんどん失われていくような気がします。ただ読むだけじゃあなくって、色々読み取ろうとすれば、たといそれが作者の思惑とは違おうが、自分ひとりで様々に感じ取れる、そんな感性が優先されるようなマンガです。
 不思議な話が好きなら、そして常識の通ったストーリーやオチが無くても大丈夫だと言うのなら、兎に角読めということなのだけど、人を選ぶ気がしないでもない。ただ気に入ったなら何度でも再読に耐えると思うので、マンガ喫茶などで確認してから買うのが吉かな。
 因みに私が気に入ったポイントは『ハルノサキブレ』の老人の寂しさと、『虹を織る声』や『博物館で月見』に見られるような感覚の共有感でした。


 あ、感じとしては『ビーム』誌や、もしかしたら『フラッパー』誌に載っていても可笑しくないようなマンガかも。『フラッパー』誌は変か? まあ『アフタヌーン』誌絡みの単行本で出ていたというのは意外だった。

*1:たまにチラリと過去の作品に触れているような箇所もあるけど

*2:それがまた読者には、少なくとも私には不思議感を高めさせるのだけれども