勾玉三部作

 さて、青い人が熱烈に勧めていたので読んでみましたが、確かにこれは人に勧めるだけのことはある。細かいお話しってのは奈々さんにガッツリお任せするのだけれども、一言で言うならばこの作者、材料を料理するのが上手いなぁ。それぞれ『空色勾玉』は素戔嗚尊、『白鳥異伝』は日本武尊、『薄紅天女』は坂上田村麻呂と、そして更級日記の一節、という風に、題材があるわけだけれど、それぞれキチンと要所要所のイベントを、そのままズバリではなく捻りを加えて描写していて、ああ元はこういう出来事だったのが、時を経て今に伝わる話になったのだな、と妄想してみても面白いほど。
 とは言え、まあ難が無い訳でもなくって、『空色勾玉』では時代が神話時代ということもあって、登場人物たちの会話や地の文すらも出来得る限り音では無くて訓で描写しようと、大和言葉で描写しようとしていて、それは凄いはまっていて良いのだけれど、最後の最後で登場人物に「断末魔*1」なんて言われて、ちょっと素に戻ってしまったり。
 それから『白鳥異伝』で登場人物たちが合流してからの話の流れは、何だろう。紙幅が足らなかったのかな。あまりにも急な話の展開で、そしてそれが登場人物の心情に大きく関ることなので、背負っているものは大きいのに、すごく彼らが役割を演じているが如くに薄っぺらになってしまう。
 それは兎も角。
 全作品に渡っていえることなんだけれど、最後のどんでん返しがとても良くって、一端沈めておきながら上手くハッピーエンドに持ってきている。それは基本的には小学校高学年向けの児童文学なのだから当然かもしれないけれど、そのハッピーエンドに持っていく際の道のつけ方、言い訳の仕方がとても良くって気に入っています。このどんでん返しの上手さ自体は、『白鳥異伝』が一番のお気に入りです。
 あと各作品、単独できちんと読めるようになってはいるのですが、それでも繋がりが勾玉にしか無いようでいて、キチンと各作品を繋ぐ背景があり、ニヤニヤと喜ばしてくれますので、どれから入っても良いのですが、1冊が気に入ったなら他の作品にも手を出してみて損は無いと思います。

  • 『空色勾玉』
    • 「繰り返し」というモチーフは個人的に好きなのだけど、この作品ではただ一つの円をグルグルと回るのではなく、螺旋階段を進むように同じことを繰り返しながらも先に進んでいる、という点がツボ。
  • 『白鳥異伝』
    • 日本武尊伝説に応じた事件は起こるのだが、それをすべて後から伝え聞く形にし、日本武尊の猛々しさ、獰猛さを引き立てている点には納得。
  • 『薄紅天女
    • 登場人物の合流がとてもよいのと、こちらは人物描写に惹かれました。人物描写に惹かれたというのは『空色勾玉』ではなく、『白鳥異伝』で景行天皇1名だったのですが、こちらでは色々な人たちに惹かれ。

*1:「断末魔」末魔は梵marmanの音訳。死節、死穴の意。命の終わるときにはこれが分解して苦痛を生じ、死に至るという。断末魔で臨終を表す仏語。