長沼毅『生命の星エウロパ』(NHKブックス)

 面白かったんだけど読後感は悪かった。
 本の内容としては、氷があり、火山活動の可能性があり、ということは、衛星表面上は一面の氷であっても、その氷床下には海がある可能性を秘めたエウロパの環境について語り、作者の専門とも言える、そうした環境下でも住みうる地球上の極限下の生物を紹介し、エウロパにも生命の可能性があるとするものでした。
 例えば光の届かない深海のチューブワームなどは、光の代わりに熱源を用いた光合成(? 光じゃあないですが)を行うことで栄養を得ているらしいのですが、こうした生物や、また南極氷床下にあるボストーク湖に住んでいるか知れない生物であれば、エウロパの氷床下海の深海でも住みうるのだと丁寧に説明しています。
 そうして、たとい人間の住めない環境であっても、こうした環境にも立派に適応している生物がいることをあげ、極限下や辺境という言葉は人間中心的な物の考えで、そうした考えを取り払えば極限下という言葉は成り立たない、と、それがたとい地球圏外であっても、同様であろう、とする下りは非常に素晴らしく、眼から鱗ものであったのですが、そうした書き様でありながら、同時にそうした生物に、「彼らは何を夢みるのだろう」とか「人間のことをどう思うのか」などと、人間的な考え方を押し付ける様は見苦しく、読んでいて本当に苦痛でした。
 全般に渡って、そうした何と言うか「ブンガク的表現」じみた表現が散見されて、ポイントポイントでは的確なのかもしれないけれど、結局くどくどしくなって良い印象を受けませんでした。
 本の内容自体は非常に面白く、通常の生物感を揺るがすとともに、まだ手の届かないエウロパの生命の可能性に夢を馳せれる良書だと思うのですが、どうにも惜しい感じのする本です。