朝松健『五右衛門妖戦記』(光文社)
読了。
新作かと思っていたら、過去の『妖術 太閤殺し』(講談社)を改題したものでした。って、だったら『妖術 先代萩』(ベストセラーズ)も出るのだろうか、ちょっと気になるところです。
これは巻末の解説にも書かれていることなのだけれども、この頃、90年代頭の頃に、朝松健は歌舞伎に魅了されておりまして、歌舞伎十八番の「世界」を自分の領域であるオカルトと言う「趣向」でもって書換えてやろう、という意欲に燃えて、そして出版されたのが上記2点な訳で、今作品は「桜門五三桐」の書換えにあたります。
しかし、その後大病を患い復帰してからは、中途半端にぶら下がっていた『ノーザン・トレイル』や『魔術戦士』のシリーズを書き終えたことを除いては、一貫して室町物伝奇小説に、特に一休宗純を主人公とした作品を書いて来た訳ですけれど、それが去年辺りから、これまた続きを書く場の無かった「真田十勇士」物が出始めて、またこうした「歌舞伎」物が出たということは、朝松伝奇歌舞伎十八番を出していくと言うことなのでしょうか。これからの作品展開に大いに期待したいところです。
で、まあ読んでみますと、病後の朝松健の重苦しい過剰なまでの説明的な描写などはあまり見受けられなくて、えぐ味・くどさがなんだか物足りないなぁという感じです。最近の朝松健の文体に慣れているから、それも当然なんだろうけど、しかしこうした古い作品が出るっていうのは、朝松初読の方には読みやすいだろうから、逆にいいのかもしれません。
あと物足りなさを感じてしまうのは、邪宗門真言立川流が出てきていないとか、誉主都羅権明王(よす・とらごんミョウオウ)や偶忌荒祝部毒命(ないあらはふりびノミコト)、蟆雷悪弊兇鳥(ばいあくへいノマガドリ)などといったクトゥルフ神話群の名前が見受けられないからかも知れない。
しかしこの本を読むと、10年前もそうだったけど、「逆宇宙」物が読みたくなってくる。なんといってもあの人(人?)の同族が登場するのだから、それだけでもうウハウハ。
ところで巻末解説で、解説者は「霧隠大蔵の息子が見てみたい、読んでいない朝松作品に出てるのだろうか」みたいなことを言ってるが、何を言うかなこの人は。つか、あまり朝松作品を読んでいないことが丸分かりじゃあないですか。祥伝社から出ている「真田十勇士」物にしっかり出ていますって。もう手に入らない作品に出ていたのなら兎も角も、去年出版された作品なんだから、それに出版タイトルを目にする手間を惜しんでなければ解ることなのに。