景宿類第一(天河附出)

    • 『造天地経』によると、仏が宝応菩薩*1に命じて日を造らせたとのことである。
    • 造天地經云、佛令寶應菩薩造日。
  • 陽烏
    • 『歴天記』によると、太陽の中に三本足の烏がいるとのことである。その色は赤いそうだ。考えるに『文選』でいう陽烏、『日本書紀』でいう頭八咫烏であり、『田氏私記』にいう(八咫烏【ヤタガラス/夜太加良須】)のことであろう。
    • 歴天記云、日中有三足烏。赤色。今案文選謂之陽烏、日本紀謂之頭八咫烏、田氏私記云(夜太加良須)。
    • 『造天地経』によると、仏が吉祥菩薩*2に銘じて月を造らせたとのことである。
    • 造天地經云、佛令吉祥菩薩造月。
  • 弦月
    • 劉煕『釈名』によると、弦月とはひと月の半ばの名前のことである。その形は一方が丸く、一方がまっすぐである。弓に弦を張ったような形である。弦(和名は弓張り【ユミハリ/由美八利】。上弦と下弦がある)。
    • 劉煕釋名云、弦月月之半名也。其形一旁曲、一旁直。若張弓弦也。弦(和名、由美八利。有上弦下弦)。
  • 望月
    • 『釈名』によると、望月(和名は望月【モチヅキ/毛知都岐】)とは大の月で16日、小の月で15日の月のことである。日は東にあるとき、月は西にあり、遥か望んで相対している。
    • 釋名云、望月(和名、毛知都岐)月大十六日、小十五日。日在東、月在西、遥相望也。
    • 郭知玄の『切韻』によると、暈とは太陽や月をめぐる気のことである。発音は「運」。日本では日月の(暈【カサ/加左】)という。『弁色立成』でいうところの月院である。
    • 郭知玄切韻云、暈氣続日月也。音運。此間云日月(加左)。辯色立成云、月院也。
    • 『釈名』によると、太陽や月の欠けることが蝕だとのことである。発音は「食」。少しずつ欠けていくのは、虫が草木葉を食うようである。だから字も「虫が食む」に由来する。
    • 釋名云、日月虧蝕曰。音食。稍小浸虧、如虫食草木葉。故字從虫食也。
    • 『説文』によると、星とは万物の精が昇って生まれた物とのことである。発音は「桑経」の反切(和名は星【ホシ/保之】)。
    • 説文云、星萬物精上所生也。桑經反(和名、保之)。
  • 明星
    • 『兼名苑』によると、木星は明星とも言うとのことである。日本では(明か星【アカホシ/阿加保之】)という。
    • 兼名苑云、歳星一名明星。此間云(阿加保之)。
  • 長庚
    • 『兼名苑』によると、金星は長庚とも言うとのことである。夕暮れ時に西方に見えるので、日本では(夕星【ユウヅツ/由不豆々】)という。
    • 兼名苑云、太白星一名長庚。暮見於西方爲、此間云(由不豆々)。
  • 牽牛
    • 『爾雅註』によると、牽牛は河鼓とも言うとのことである。(和名は彦星【ヒコボシ/比古保之】、または犬飼星【イヌカイボシ/以奴加比保之】)
    • 爾雅註云、牽牛一名何鼓。(和名、比古保之、又以奴加比保之)。
  • 織女
    • 『兼名苑』によると、織女牽牛是也。(和名は棚機つ女【タナバタツメ/太奈八太豆女】)
    • 兼名苑云、織女牽牛疋也。(和名、太奈八太豆女)。
  • 流星
    • 『兼名苑』によると、流星は奔星とも言うとのことである。(和名は夜這い星【ヨバイボシ/与八比保之】)
    • 兼名苑云、流星一名奔星。(和名、與八比保之)。
  • 彗星
    • 『兼名苑』によると、彗星はその形が箒のようであるとのことである。発音は「遂」、または「歳」(和名は箒星【ハハキボシ/八々木保之】)。
    • 兼名苑云、彗星其形如箒篲也。音遂、又音歳(和名、八々木保之)。
  • 昴星
    • 『宿曜経』によると、昴星は星が6つあり、火の神だとのことである。発音は「卯」と同じ(和名は昴【スバル/須八流】)
    • 宿曜經云、昴星六星火神也。音與卯同(和名、須八流)。
  • 天河
    • 『兼名苑』によると、天漢とも言うとのことである。考えるに、他に河漢や銀河という名でもある。(和名は、天の川【アマノガワ/阿萬乃加八】)。
    • 兼名苑云、一名天漢。今按又名河漢銀河也、(和名、阿萬乃加八)。

*1:宝応菩薩:宝応声菩薩。観世音菩薩をさす。

*2:吉祥菩薩:宝吉祥菩薩。ここでは勢至菩薩をさす。