巌石類第五*1

    • 『唐韻』によると、巌の音は「五銜」の反切。または[石編に厳]とも書く(和名は巌【以八保/イワオ】)。
    • 唐韻云、巌、五銜反。又作[石編に厳](和名、以八保)。
    • 『陸詞』によると、磐は大きい石とのこと。音は「盤」(和名は岩【以波/イワ】)。『日本書記』によると、千人で引くことのできる大きな石とのことである(和名は千引の石【知比木乃以之/チビキノイシ】)。
    • 陸詞云、磐大石也。音盤(和名、以波)。日本記云、千人可引磐石(和名、知比木乃以之)。
    • 『陸詞』によると、石は土が凝り固まったものとのことである。音は「常尺」の反切(和名は石【以之/イシ】)。
    • 陸詞云、石凝土也。常尺反(和名、以之)。
  • 鍾乳
    • 『新鈔本草』によると、鍾乳とは備中国英賀郡*1で算出される石とのことである(和名は石の乳【以之乃知/イシノチ】)。
    • 新鈔本草云、石鍾乳出備中國映賀郡(和名、以之乃知)。
  • 消石
    • 『丹口決』によると、消石は芒消とも言うとのことである。『薬決』によると、朴消は石朴とも言うとのことである。考えるに消石と朴消というのは同じものであろう。『要方』によると、消石とは芒消の元であって、この消石を錬成すると芒消となるとある。
    • 丹口決云、消石一名芒消。藥決云、朴消一名石朴。今按、消石朴消、是一物也。要方云、消石者芒消之根盤者錬之成芒消、是也。
  • 朴消
    • 『要方』によると、朴消とは芒消の大きなものとのことである。
    • 要方云、朴消者芒消之大者也。
  • 譽石*2
    • 『唐韻』によると、譽石とは薬石だとのことである。音は「与」。『本草』によると、沢乳ともいう。これを食った蚕は太り、これを食った鼠は死ぬ。考えるに、また特生譽石というものもある。
    • 唐韻云、譽石藥石也。音與。本草云、一名澤乳、蚕食之肥、鼠食之死。今按、又有特生譽石。
  • 礬石
    • 『蘇敬』によると、礬石には青白黒緑黄の五種類があるとのことである。音は「繁」。日本でいう悶石。
    • 蘇敬曰、礬石有青白黒緑黄五種矣。音繁。此間云、悶石。
  • 滑石
    • 本草』によると、滑石は脆石とも言うとのことである。『蘇敬』によると、極めて柔く滑らかであるためこの名前だとのことである。
    • 本草云、滑石一名脆石。蘇敬云、極輭滑故以名之。
  • 陽起石*3
    • 本草』によると、陽起石は羊起石とも言うとのことである。
    • 本草云、陽起石一名羊起石。
  • 凝水石
  • 本草』によると、凝水石は寒水石とも言うとのことである。この石の欠片を水中に置くと、夏であっても氷が出来るという。または縦理は寒水となり、横理は凝水なる、とも云う*4
  • 本草云、凝水石一名寒水石。此石末置水中、夏月能爲氷、或云縱理爲寒水、横理爲凝水。
  • 慈石
    • 本草』によると、慈石は針を吸い寄せるとのことである。日本でいう(磁石【之蛇久/ジザク】)。慈は正しくは石を添えて礠と書く、と『唐韻』にある。
    • 本草云、慈石吸針。此間云(之蛇久)。慈正從石作礠、見唐韻。
  • 玄石*5
    • 本草』によると、玄石とは玄水石とも言うとのことである。考えるに、慈石とは玄石のことであろう。
    • 本草云、玄石一名玄水石。今按、慈石又有玄石之名。
  • 理石*6
    • 本草』によると、理石とは立制石とも言うとのことである。考えるに、礬とは理石のことであろう。
    • 本草云、理石一名立制石。今按、礬又有理石之名。
  • 長石*7
    • 本草』によると、長石とは方石とも言うとのことである。
    • 本草云、長石一名方石。
  • 桃花石*8
    • 本草』によると、桃花石の色は桃の花のようであり、なのでこの名前となっているとのことである。日本で言う(【道卦尺/トウカシャク?】)である。
    • 本草云、桃花石色如桃花、故以名之。此間云(道卦尺)
  • 方解石*9
    • 本草』によると、方解石とは黄石とも言うとのことである。。
    • 本草云、方解石一名黄石。
  • 浮石
    • 『丈州記』によると、中には空洞が多く、そのため軽いとのことである。(和名は軽石【加留以之/カルイシ】)。
    • 丈州記云、體虚而輕(和名、加留以之)。
  • 細石
    • 『説文』によると、礫とのことである。水中の細かい石である。音は「歴」(和名は細石【佐佐禮以之/サザレイシ】)。
    • 説文云、礫也。水中細石也。音歴(和名、佐佐禮以之)。
    • 『聲類』によると、砂は水中の細かい礫とのことである。音は「所加」の反切(和名は砂子【以左古/イサゴ】【須奈古/スナゴ】)。
    • 聲類云、砂、水中細礫也。所加反(和名、以左古。又須奈古)。
  • 纎砂
    • 『日本書記私記』によると、(砂子【萬奈古/マナゴ】)とのことである。細かである。
    • 日本記私記曰、(萬奈古)。纎細也。

*1:備中国英賀郡:現在の岡山県新見市東部中部近辺。

*2:譽石:硫砒鉄鉱

*3:陽起石:緑閃石または透閃石。

*4:縦理は寒水となり、横理は凝水なる、とも云う:「縦文様は寒水石、横文様は凝水」の意味か?

*5:玄石:磁力の弱い磁鉄鉱

*6:理石:繊維石膏。

*7:長石:硬石膏。

*8:桃花石:桃色の石灰岩

*9:方解石:炭酸石灰