藭靈類第十六

  • 天藭
    • 周易云、天藭曰、藭食鄰反(和名、加美)、日本記云、天藭(和名、安萬豆夜之呂)。
    • 周易』によると天藭は、藭の音は「食鄰」の反切(和名は神【加美/カミ】)とのことである。『日本記』によると、天神(和名は天津社【安萬豆夜之呂/アマツヤシロ】)のことである。
  • 心藭
  • 地祇
    • 周易云、地藭曰、祇巨支反、日本記云、地祇(和名、久爾豆加三)或(夜之呂)。
    • 周易』によると地藭は、祇の音は「巨支」の反切。『日本記』によると、地祇(和名は国津神【久爾豆加三/クニツカミ】)あるいは(社【夜之呂/ヤシロ】)とのことである。
  • 天一
    • 百鬼經云、天一藭(和名、奈加加美)天女化身也。
    • 『百鬼経』によると、天一神(和名は中神【奈加加美/ナカカミ】)とは天女の化身とのことである。
  • 雷公(電等附)
    • 兼名苑云、雷公一名雷師、力回反(和名、伊加豆知)、一云(奈流加美)。電堂錬反(和名、伊奈比加利)、一云(伊奈豆流比)、一云(伊奈豆萬)。電之光也。霹靂辟歴二反、俗云、(加三於豆)、一云(加三止介)。霹析也、靂歴也、所歴皆破析也。
    • 『兼名苑』によると、雷公とは雷師とも言い、音は「力回」の反切(和名は雷【伊加豆知/イカヅチ】)または(鳴神【奈流加美/ナルカミ】)とのことである。電は、音は「堂錬」の反切(和名は稲光【伊奈比加利/イナビカリ】)、または(稲交接【伊奈豆流比/イナツルビ】)、または(稲妻【伊奈豆萬/イナヅマ】)、稲妻の光のことである。霹靂は、音は「辟歴」、俗にいう(神落つ【加三於豆/カミオツ】)、また(神解け【加三止介/カミトケ】)のことである。霹析也、靂歴也、所歴皆破析也。
  • 山藭
    • 内典云、山藭(和名、夜萬乃加美)。日本記云、山祇。
    • 『内典』によると、山神(和名は山の神【夜萬乃加美/ヤマノカミ】)とのことである。『日本記』でいう山祇である。
  • 海藭
    • 文選海賦云、海童即海藭也。日本記云、海藭(和名、和太豆美乃加美)。
    • 『文選海賦』によると、海童が海神とのことである。『日本記』によると、海神(和名は海つみの神【和太豆美乃加美/ワダツミノカミ】)とのことである。
  • 河伯
    • 兼名苑云、河伯一云水伯、河之藭也(和名、加波乃加美)。
    • 『兼名苑』によると、河伯とは水伯とも言い、河の神とのことである(和名は川の神【加波乃加美/カワノカミ】)。
  • 旱魃
    • 孫愐切韻云、魃歩末反(和名、比天利乃加美)。旱藭也。
    • 『孫愐切韻』によると、魃の音は「歩末」の反切(和名は旱の神【比天利乃加美/ヒデリノカミ】)で、旱神とのことである。
  • 土公
    • 董仲舒書云、土公駑空二反。春三月在竈、夏三月在門、秋三月在井、冬三月在庭。
    • 董仲舒書』によると、土公の音は「駑空」で、春の三カ月は竃におり、夏の三カ月は門におり、秋の三カ月は井戸におり、、冬の三カ月は庭におるとのことである。
  • 産靈
    • 日本記云、産靈(和名、無須比乃加美)。
    • 『日本書記』によると、産霊(和名は産霊の神【無須比乃加美/ムスビノカミ】)とのことである。。
  • 道祖
    • 風俗通云、共工氏之子好遠遊故其死後以爲祖(和名、佐倍乃加美)。
    • 『風俗通』によると、共工の子*1が遠遊を好んでいたため、その死後において祖となったとのことである(和名は塞の神【佐倍乃加美/サエノカミ】)。
  • 岐藭
    • 日本記云、岐藭(和名、布奈止乃加美)
    • 『日本書記』によると、岐神(和名は岐の神【布奈止乃加美/フナドノカミ】*2)とのことである。
  • 道藭
    • 唐韻云禓、音觴(和名、太無介乃加美)。道上祭、一云、道藭也。
    • 『唐韻』によると禓とのことである。この音は「觴」(和名は手向けの神【太無介乃加美/タムケノカミ】*3)。峠や坂の上で祭り、道神ともいう。
  • 保食藭
    • 日本記云、保食藭(和名、宇介毛知乃加美)。保猶保持也。宇氣者食之義也。言是保持食物之藭也。
    • 『日本書記』によると、保食神(和名は保食神【宇介毛知乃加美/ウケモチノカミ】)とのことである。保とは「保持」である。「ウケ」とは食物を意味する。これで食物を受け持つ神となる。
  • 稲魂
    • 日本記云、稲魂(和名、宇介乃美太萬)。俗云、(宇加乃美太萬)。
    • 『日本書記』によると、稲魂(和名は宇迦之御魂/倉稲魂【宇介乃美太萬/ウケノミタマ】)とのことである。俗に言う(【宇加乃美太萬/ウカノミタマ】)である。
  • 幸魂
    • 日本記云、幸魂(和名、左知美太萬)。俗云、(佐岐太萬)。
    • 『日本書記』によると、幸魂(和名は幸魂【左知美太萬/サチミタマ】)とのことである。俗に言う(【佐岐太萬/サキタマ】)である。
  • 現人神
    • 日本記云、現人神(和名、安良比止加美)。
    • 『日本書記』によると、現人神(和名は現人神【安良比止加美/アラヒトカミ】)とのことである。
  • 樹藭
    • 文選蕪城賦云、木魅山鬼。今案、木魅即樹藭也。内典云、樹藭(和名、古太萬)。
    • 『文選蕪城賦』によると、木魅山鬼とのことである。考えるに木魅とは樹神のことだろう。『内典』によると、樹神(和名は木霊【古太萬/コダマ】)とのことである。
  • 水藭
    • 左傳注云、魍魎、網兩二反。魍魎、水藭也(和名、美豆知)。
    • 『左伝注』によると、魍魎、音は網兩とのことである。魍魎とは水神である(和名は水津霊【美豆知/ミズチ】)。
    • 四聲字苑云、郎丁反。日本記云、(美太萬)。一云、(美加介)。又用魂魄二字。
    • 『四声字苑』によると、音は「郎丁」の反切とのことである。『日本書記』によると、(御霊【美太萬/ミタマ御霊】)とのことである。また(御影【美加介/ミカケ】)とも言う。また魂魄との書く。

*1:共工の子:后土、つまりは句竜のことか。

*2:岐の神【布奈止乃加美/フナドノカミ】:道が分岐・交差する場所(岐【フナド】)で、悪神・邪霊が内に入るのを防ぐ神。

*3:手向けの神【太無介乃加美/タムケノカミ】:旅人の道中安全を守る神。